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福井家庭裁判所 昭和37年(家)640号 審判 1965年8月17日

申立人 田村きく(仮名) 外二名

相手方 田村寿男(仮名)

主文

一、申立人ら及び相手方は、共同して次の登記手続をせよ。

(1)  左記(イ)、(ロ)の土地を合併して、(ハ)の土地とする合筆登記

(イ)  福井県○○郡○○町○○○五七字○○○四番

一、宅地 二二〇坪

(ロ)  福井県○○郡○○町○○○五七字○○○五番の三

一、宅地 二六坪

(ハ)  福井県○○郡○○町○○○五七字○○○四番

一、宅地 二四六坪

(2)  右(ハ)の土地の地積を左記(二)のとおりとする地積更正登記

(ニ) 福井県○○郡○○町○○○五七字○○○四番

一、宅地 二二〇坪二合一勺

(3)  右(ニ)の土地を別紙土地分筆地積測量図のとおり左記(ホ)、(ヘ)の土地に二分する分筆登記

(ホ) 福井県○○郡○○町○○○五七字○○○四番の一

一、宅地 一四四坪八合二勺

(ヘ) 福井県○○郡○○町○○○五七字○○○四番の二

一、宅地 七五坪三合九勺

(4)  左記(ト)の建物の種類 床面積を(チ)のとおりとする建物種類及び床面積更正の登記

(ト) 福井県○○郡○○町○○○五七字四番地

家屋番号  ○○○一〇七番

主たる建物 木造瓦葺二階建居宅 一棟

床面積   一階四五坪七合五勺

二階一五坪七合五勺

附属建物

(一)  木造瓦葺平家建作業場 一棟

床面積 二八坪

(二)  木造瓦葺平家建工場 一棟

床面積 三一坪

(チ) 福井県○○郡○○町○○○五七字四番地の一、四番地の二

家屋番号 ○○○一〇七番

木造瓦葺二階建居宅兼工場 一棟

床面積   一階一〇三坪二合九勺

二階 一五坪七合五勺

(5)  右(チ)の建物を別紙建物平面図のとおり、左記(リ)の建物に区分する建物区分の登記

(リ) 一棟の建物

福井県○○郡○○町○○○五七字四番地の一、四番地の二

木造瓦葺二階建

床面積 一階 一〇三坪二合九勺

二階 一五坪七合五勺

専用部分

(一)  家屋番号 ○○○一〇七番

木造瓦葺 平家建工場

床面積  七二坪三合七勺

(二)  家屋番号 ○○○一〇七番の二

木造瓦葺 二階建居宅

床面積  一階 三〇坪九合一勺

二階 一五坪七合五勺

二、被相続人田村庄造(本籍福井県○○郡○○町○○○第五七号四番地甲)の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙第一目録及び第二目録記載の物件を、各同目録表の分割欄のとおり、相手方と申立人らとに分割する。

但し、相手方はその単独所有とし、申立人らは、申立人ら三名の共有(申立人坪田きなおの持分は七分の三、申立人粟津まつれ、同金谷ユリコの持分は各七分の二)とする。

(2)  別紙第三目録ないし第七目録記載の物件及び第一〇目録記載の耕作権(小作権)は、申立人ら三名の共有(申立人田村きくの持分は七分の三、申立人津田ハマコ、同谷川リツコの持分は各七分の二)とする。

(3)  別紙第八目録記載の物件は、相手方の単独所有とする。

(4)  別紙第九目録記載の債権は、相手方がこれを取得するものとする。

三、相手方は、申立人ら三名に対し遅滞なく、別紙第一目録記載合筆・更正・分筆後の地番、四番の二の宅地七五坪三合九勺及び同地上の別紙第二目録記載更正・区分後の家屋番号一〇七番の二の建物を、明渡せ。

四、相手方は、申立人ら三名に対し遅滞なく、別紙第三ないし第六目録記載の物件を明渡し、かつ別紙第七目録記載の物件を引渡せ。

五、相手方は、申立人ら三名に対し遅滞なく、別紙第一〇目録記載の土地(耕作地)を明渡せ。

六、申立人らは、相手方に対し、当分の間(相手方が移住先を準備するに必要な期間)、別紙第二目録記載の更正・区分後の家屋番号一〇七番の二の建物のうちの一室を、無償で使用させなければならない。

七、相手方は、申立人田村きくに対し金一〇八、五一八円を、申立人津田ハマコに対し金七万二、三四四円を、申立人谷川リツコに対し金七万二、三四四円を、それぞれ支払え。

八、審判並びに調停費用は、そのうち鑑定人上野克見、同高橋勇、同天谷信四に支給した費用合計二万九、五〇〇円を四分し、その一を相手方の負担とし、その三を申立人ら三名の連帯負担とし、その余は各自の負担とする。

理由

当裁判所は、本件記録にあらわれている諸資料により、以下に記述する各事実を認定し、その他諸般の事情を考慮して、次のとおり判断する。

一、共同相続人と相続分の確定

被相続人田村庄造は、昭和三六年一〇月六日相手方の住所において死亡し、本件遺産相続は、この時に開始した。しかして、その共同相続人は、被相続人の死亡当時における妻である申立人田村きくと、被相続人の子である相手方田村寿男(長男)、申立人津田ハマコ(二女)、同谷川リツコ(四女)との四人であり、したがつて、その法定相続分は田村きくが三分の一、その他の相続人は各九分の二ずつである。

二、遺産の確定

被相続人の遺産は、別紙第一目録ないし第一〇目録記載の不動産、動産、債権(預金類)及び耕作権(小作権)であつて、その価額は総計三三五万一、〇八九円と認定する。

(イ)  申立人らは、別紙第一一目録記載の織機等についても、これが被相続人の遺産に属する旨主張するが、右主張事実を肯認するに足る資料がなく、却つて該織機の登録名義人が相手方である事実に、相手方及び大西一男、内田新五、田村しづこの各審問の結果をあわせると、同目録記載の織機及びその他の機械類は相手方の固有財産に属することが窺われるので、これらは遺産の範囲に属するものと認めない。

(ロ)  申立人津田ハマコ、同谷川リツコ及び相手方については、その学資や婚姻の仕度として、被相続人から相当の贈与を受けたことが窺われないでもないが、その贈与の価額を明認することができないのみならず、右は被相続人の資産状態・社会的地位等に照し、その扶養義務の範囲内に属するものと認めるを相当とするから、いずれもこれを、生計資本たる特別贈与に計上することはしない。

(ハ)  次に申立人らは、被相続人の死亡当時に存在した現金三四〇円及び保有米七・五石(価額七万六、九五〇円)は、相手方において費消したのであるから、当然遺産に加えるべきである旨主張し、相手方は、同人が支出した相続税二万三、九九〇円、町民税、県民税、固定資産税等合計六、三三〇円、及び葬儀費用一二万五、七六〇円から香奠七万〇、〇〇〇円を差引いた残額五万五、七六〇円、並びに別紙第二目録記載の居宅の改造・修理費合計約一三万〇、〇〇〇円についても、これらを本件遺産分割において考慮せらるべきである旨主張するが、右保有米及び現金は現在までに消費されて、現存しないのであり、かつ遺産分割制度に清算の要素を含ましめていない現行法のもとにおいては、右保有米・現金はもちろん、税金・葬儀費用・居宅改造・修理費等については、相続人間において別個に清算すべき性質のものと解すべきであるから、これらは、すべて遺産分割の範囲に属せしめない。

(ニ)  なお、申立人らは、遺産として農業用動産(鍬五丁、鎌一〇丁、脱穀機、臼すり器等)及び株券等の存在をも主張するが、右農業用動産は、いずれも無価値に等しいものであり、株券等の存在は、これを認めるに足る資料がないから、これらもすべて遺産の範囲に属せしめない。

三、遺産分割につき斟酌さるべき事情

(1)  申立人田村きくの事情

申立人田村きくは、大正一二年一〇月頃被相続人の後妻として、同人と結婚(大正一四年四月二〇日婚姻届出)し、以来被相続人に協力して機業の手伝いや農耕等に従事して来たが、被相続人の死亡後は、その先妻の子である相手方との折合が極度に悪化したため、昭和三七年三月五日相手方の許を家出し、爾来実子である申立人津田ハマコ、同谷川リツコの家に一〇日間位ずつの割合で同居し、その扶養を受けているが、無職、無収入であるところより、法定相続分どおりの遺産分割を強く希望し、遺産である農地及び現在相手方が占有居住している居宅の分与を、強硬に主張している。

(2)  相手方田村寿男の事情

相手方は、大正七年三月一二日被相続人とその先妻とよとの間に長男として出生し、福井県立工業学校を中途退学し、昭和一三年一二月妻しづこと婚姻し、昭和二四年頃から工員数名を使用して機業を主宰して来たが、被相続人の死亡後は、継母である申立人田村きくとの折合が悪化し、同人家出後は、妻子三名(長女は他家に嫁し、現在は妻及び二子と同居している)と共に、別紙第二目録記載の居宅に居住して、被相続人の遺産全部を占有し、機業経営のほか農地約八反を耕作して、現在に至つているが、遺産分割の結果、その生活の根拠が失われることを危惧し、申立人田村きくの帰宅を待つのみであると主張して、遺産分割を拒否し、これが本件調停不成立の要因となつていた。

(3)  申立人津田ハマコの事情

申立人津田ハマコは、大正一四年四月三〇日被相続人と申立人田村きくとの間に二女として出生し、福井○○女子学園を卒業して、昭和二四年五月九日福井県○○郡○○町所在○○寺の住職である津田宗男と婚姻し、以来専ら家事に従事しているが、その生活程度は中位である。本件遺産分割については、農地の分与を受け、他の申立人らと協力して農耕に従事することを望んでいる。

(4)  申立人谷川リツコの事情

申立人谷川リツコは、昭和九年五月一八日被相続人の四女として出生し、福井県立○○高校を卒業して、昭和二九年三月三〇日相手方の妻しづこの弟である谷川学と婚姻し、以来専ら家事に従事しているが、夫学は福井○○高校の教師であり、同人との間に二子がある。資産として建坪約一八坪の居宅及び宅地五〇坪を有しているが、本件遺産分割については、申立人津田ハマコと同様、農地の分与を受け、他の申立人らと協力して農耕に従事することを望んでいる。

四、被相続人の遺産は前記のとおりであつて、前記相続人らの相続分に従つて、その財産総額を按分すれば、申立人田村きくが一一一万七、〇三〇円、相手方田村寿男及び申立人津田ハマコ、同谷川リツコがそれぞれ七四万四、六八六円ずつという計算になる。

よつて、これを基準として遺産を分配することとなるが、遺産の帰属を決定するについては、諸般の事情、殊に相手方が従来より機業を主宰して来たこと、これに対し申立人らは従来より主として農耕に従事していて、農地の分与を希望していることなどの点を考慮するときは、本件遺産のうち、機業関係の物件は相手方に、農業関係の物件は申立人らに、それぞれ分配するのが相当と思料される。

しかしながら、相手方が現に占有居住中の別紙第二目録記載の建物のうち、居宅部分については、申立人田村きくにおいて、その分与を強く希望しているのに拘わらず、相手方は現にこれに居住していてその明渡に応じないのみならず、右建物の構造は、別紙建物平面図に記載のとおり、居宅部分と工場、作業場部分とが廊下等によつて結合されており、これを現状のままで分筆することは困難であるため、相手方において、支払うべき資力さえあれば、相手方から申立人田村きくに金銭を支払わせて、右居宅を相手方に取得せしめることも可能であろうが、相手方には右の如き資力はないから、この方法は困難であつて、現物分割以外に適当な方法を発見できない状態である。したがつて、右居宅の帰属を決することは極めて困難な問題であるといわなければならない。

よつて、当裁判所は、前記諸事情のほか、本件遺産分割についての調停の過程において、右建物を居宅部分と、工場・作業場部分を相手方に分配する趣旨の調停案については、関係人間において大体異存がなく、これに加えて相手方に対し農地の一部を分与するかどうかの点で協議がまとまらず、結局調停が不調に帰したという事情をもあわせ考慮し、右居宅部分は申立人らの共有とし、相手方がこれを明渡すための移住先を準備するに必要な期間に限り、右居宅のうちの一室を相手方に使用せしめるを相当と認める。

よつて、遺産の種類及び性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮して、主文第二項記載のとおり遺産を分割することとし、右分割の前提として、主文第一項のとおり登記手続を行うことを命じ、右分割の結果行わるべき占有移転の義務について、主文第三項ないし第五項のとおり定め、相手方が移住先を準備するに必要な期間に限り、申立人らに対し主文第六項の義務を命じ、右分割によりその相続分の価額に満たない部分を現金をもつて平均せしめることにして、相手方に対し主文第七項の給付を命じ、審判並びに調停手続費用の負担について家事審判法第七条、非訟事件手続法第二六条、第二七条、第二九条、民事訴訟法第九三条を適用して、主文第八項のとおり定める。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高津建蔵)

別紙<省略>

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